ポニョの正体
以前書いたけど、国民的アニメ作家宮崎駿には崖の上のポニョっていう問題作がある。
初めて見たとき打ちのめされたよ。
作劇上は盛大に破綻してる。
少年とポニョの間にはいかなる葛藤もなく、なんにもドラマが起こらない。
周囲の大人たちの行動もまるで理屈に合わなくて、悪夢を見ているよう。
なのに映像は圧倒的にハイクオリティなの。
「出てくる人みんな死んでる」
「地獄の人魚姫」
「産道を逆流して子宮に帰る胎内回帰願望」
いろいろ議論を呼んだけど夢の分析と同じでたぶん正解はない。
登場人物も、その行動も、込められたメッセージも(それがあるとして)何一つ共感できなかった。
わざと共感を拒むように作ったんじゃないかと思えるほど。
ところがこれが何度もくりかえし見ちゃう。
それはきっと、宮崎がこの作品であけすけに自分をさらけ出してるから。
「幼児に戻りたい」
「戻って幼女と結婚したい」
「すべての対立が無化した世界でママに見守られて暮らしたい」
今までの作品では抑圧されて後ろに退いていた願望が、全開垂れ流しの津波になって文字通りスクリーンを水浸しにしてる。
しかも映像作家としては超一流なので始末におえない
天才が巨費を投じて作った極私的ポルノグラフィー。
それがポニョの正体だと思う。
この作品で宮崎はフェリーニと肩を並べたんじゃないか。
作家の私的遊戯がそのまま映画史になるという意味で。