箱
》もう一度やり直しても君を選ぶ
時系列が複雑な作品。初出は季刊コミュポ13号。
フィルムの逆再生のように全てが巻き戻る形式のストーリーを考えていたんだけど、なにやら実験作品のようになるので諦めた。
代わりに小道具を使って段階的に過去に戻る形にしたよ。
創作時のノートを見ると「巡り合わせの不思議」がテーマとなってるけど、今読み返すと偶然と必然の対比の方が強く感じられて興味深い。
ところでこの手のモノは現実の因果律に反するので、どうしても話に矛盾が出てくる。
この話も冷静に読みなおすと作者でも「あれ?」というところがなくもない。
でもあれじゃんホラ、ドラえもんでも、のび太がジャイ子と結婚しなければ孫のセワシは生まれなかったはずだよね?なのにセワシは過去に戻ってのび太をしずかちゃんと結婚させようとしてたよね?おかしいよね?でもおれら特に気にせず読んでたじゃん!
だからこの作品もちょっとおかしいな・・・と思っても許してニャン(語尾をかわいくしたのでもうだいじょうぶ)
メッセージをどうぞ
》ピーッという発信音を待たず切る
話をしたくて電話をしているのに、留守電だと慌てて切ってしまう
30秒以内に自分の思いをまとめなきゃっていうプレッシャーに耐えられない
こうして言い残したことばが増えていく
言いたくて言えなかったメッセージを抱えたまま、青春も歴史も終わっていく
ヴォネガットの「タイタンの妖女」では、人類の文明全体がたった一言の「ハロー」を伝えるためだけに生まれ、そして滅んでしまう
これは笑い話じゃなくて、人間は誰かに「ハロー」というために生まれたのだということをヴォネガットはこの小説で訴えている。
つまり人生の成功はメッセージの伝達が成功するかにかかっているのだ
だから誰かに呼びかけて返事がもらえたら死んでもいい
孤独が終わるからじゃない
自分だけが孤独なわけじゃないことが確かめられるからだ
バックシート・ビューティ
》助手席も運転席も知らぬ恋
片思いでも恋は恋
1%でも可能性があるならだれだって夢を見てもいい
けれどもその可能性が0%だったら?
落語の時代からある怪談の形式を借りてるけど、描写の中心は片思いの切なさにあるのでそのへんうまく伝わるといいな
星に願いを
》星に願いをかけるとき心にウソはつけません
流れ星に願いをとかっていうけど、星の身にもなってみろよ・・・
みたいな発想からできたお話。
ディズニー映画なんかでは夜空の星の一つがキラリと光ってスーッと流れる。
そういうのを見て育ったので流れ星って本当に星が流れてるんだと思ってた。
実際はその正体はゴミみたいな隕石なわけで、それをたまたま見かけたからって願いをかなえてもらおうなんて虫がよすぎる。
流れ星はそんな人間の自己中心性を浮き彫りにする。
たとえ愛しあう二人でもそれぞれ胸に抱く願いが同じとは限らない。
だから星に祈るとき、二人の間にはかすかな亀裂が生まれている。
星が流れる刹那、この惑星のすべての人々の切ない思いが一瞬だけ宇宙に閃く。
その輝きでたぶん、地球はピカって光ってる。
自分勝手で虫のいい生き物で発光する星。
それが地球なんだと思う。
そして僕らが希望を持つ限り
暗黒の宇宙で地球はまたたき続けるだろう。
ラッキーコイン
》金もない火もない俺に舞い降りた天使
自作のヘアピンを使ってみたくてでっち上げた話。
初出は季刊コミュポ11号。
オチが全てでテーマなんて特にないけど、強いて言えば偶然と必然を混同する人間の喜劇性。
そういえば「震災は天罰」みたいなこと言った人がいて、物議をかもしたことがあるよね。
これなんか典型的な偶然を必然と取り違えた発言だと思うけど、なんかこういう解釈って受け容れやすいんだよね。
たぶん原因があって結果がある、って考えた方がいろいろ前向きになれるからだと思う。
たとえそれが偶然の幸運や不運だったとしても。
というわけで、たまたまこのマンガを読んだあなた。
きっとこれは運命…ラッキーコインが願いをかなえます!
ビッグ★バンから始まった(9話・完結)
7月から一夏かけて連載したこのシリーズが今回で完結。
ビッグ★バンから始まった(全話@comee)
ちょうど今年のジャコビニ流星群の極大期と重なった。
まあ、最初からそれを目標にしてたんだけど。
4コマを元にストーリー形式の完結編を組み立てたのは久しぶり。
この方法はキャラから出発することになるので細かい伏線とか仕込みようがないんだよね。
でもその割にはなんとかヤマを作って逃げ切れたという印象。
キャラの個性を作りこんでおけば、勝手に動いてくれて話が転がるもんだね。
この話は実は5つのスジがあって、
A 本筋:理香の堕落と改心
B 脇筋1:博美留年の謎
C 脇筋2:妹との和解
D 脇筋3:優希の友情
E 脇筋4:智美の正体の謎
本筋であるAの進行に合わせて脇筋B~Dが展開していき、そのすべてをEで智美がつないでいくっていう形式になってる。
で、隠れた本筋はCで、水野姉妹の対立と和解こそがメッセージの中核を伝える役割を担っている。
こういうのって予め計算したことではなくて、純粋にキャラを使ったいわば「人形遊び」をしているうちにだんだんと自ずから組み上がっていった。
正直、自分のストーリーテラーとしての実力からは、まとめなきゃならないスジが5本もあったらどうしていいかお手上げ。
最初はエクセルでガントチャートみたいな時系列表作って何をどうするか考えてた。
でもこの方法じゃあちこちに出てくる矛盾や穴が気になって収集がつかなくなった。
そこでキャラを「場面」に放り込んで勝手に漫才をやらせる方式に変えた。
ちょうど子供が両手に人形持ってごっこ遊びするみたいに。
そうしたらいくつかのスジがすんなり最後までつながって、残りのスジはこれと矛盾がないように微調整するだけでなんとか形になった。
創作において作者は万能の神様で、ストーリーは神の計画通りに展開していくんだと想像してた。
でも、実際は作者は神様どころかある意味お客様で、脳内の劇場で演じられる芝居を感心しながらメモしてるだけって場合もあることがわかったよ。
あと、結果的にこれも「転校生シリーズ」だったことに気がついてちょっと愕然。
どうも自分は何を作っても「転校生モノ」になっちゃうみたい。なんでだろ。
最後になったけど、読んでいただいた方。コメントや拍手をくださった方。
ありがとうございました。